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仙台地方裁判所 平成7年(行ウ)7号 判決

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、平成七年二月一日付でした、原告所有地に関する北上川沿岸中田地区土地改良区県営森地区圃場整備事業の換地処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、北上川沿岸中田地区土地改良区(以下「改良区」という。)の組合員で、改良区森地区内に農地を有し、被告を事業主体とする県営森地区圃場整備事業に参加していた。

2  被告は、平成七年二月一日付で、原告所有地に関する右県営森地区圃場整備事業の換地処分(以下「本件換地処分」という。)を行った。

3  しかるに本件換地処分は、次のとおり違法である。

(一) 照応原則違反

(1) 原告は、原告所有の他の土地との交換により、本件換地処分の対象地内である、別紙A、B1ないしB4、Cの一部、DないしGの場所に各土地を所有していた。

(2) 被告は、(1)の従前の土地が全て地力の優る別紙の北半分の位置に存在したにもかかわらずこれらの土地の換地を地力の劣る南半分に位置するHに指定したもので、右指定は差別でありかつ照応の原則に反する。

原告は改良区に対して異議を申し立て、改良区が任意に指定する原告の一時利用地をJに指定し直すように希望したが、改良区は原告の右異議申立てを考慮せず、(1)の原告の所有地について原告が提出した得喪届を一部認めず、一時利用地の指定も変更しないとし、被告はこれを受けた換地計画(以下「本件換地計画」という。)を縦覧に供してそのまま本件換地処分をした。

(二) 対象土地の誤り

本件換地処分には、原告が他人所有となった旨の届出をした数筆の土地を、原告の所有地に含めて従前の土地の等位をとった瑕疵がある。

よって、原告は、被告に対し、本件換地処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張及び請求原因に対する認否

1  本案前の主張

被告が原告に対して行った平成七年二月一日付換地処分通知書が原告に到達したのは同年三月五日である。

行政事件訴訟法一四条一項によれば、右同日から三か月以内に換地処分取消しの訴えを提起しなければならない。しかるに、原告は、右到達後の同年四月二六日、先に原告が本件換地処分に先立つ換地計画(本件換地計画)に対して申し立てた異議について被告が同年一月二六日でした決定(以下「本件決定」という。)の取消しを求める訴え(以下「従前の訴え」という。)を提起したうえ(したがって、この訴え自体既に訴えの利益を欠き不適法なものであった。)、前記出訴期間を七か月以上経過した平成八年三月一一日になって従前の訴えに係る本件決定取消請求から訴えを変更して本件の換地処分取消請求をするに至ったものであり、本件訴えは、出訴期間を経過した違法な訴えであるから、却下されるべきである。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1及び2の事実は認める。

(二) 同3(一)(1)の事実は認める。同3(一)(2)の事実中、原告が被告の換地を別紙のHの位置の土地に指定したことは認めるが、その余は否認する。

原告は、養鶏場用地の確保が目的であったので、人家から離れ、農免道路に面し、全農地を一か所に集中することを要望していたところ、被告は、本件換地処分を行うにあたり、右要望を十分に考慮し、具体的場所も原告の希望をほぼ叶えて原告の換地を定めたものである。

同3(二)の事実中、原告が数筆の土地について他人所有となった旨の届出をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、改良区に対して右届出をした平成六年二月一九日から数週間後に右届出を取り下げた。

三  被告の本案前の主張に対する認否及び反論

1  本件換地処分の通知が平成七年三月五日原告に到達したことは認める。

2  被告は、平成六年一一月四日、本件換地処分に関する換地計画書を縦覧に供し、原告は、同年一二月一六日、これに対する異議申立てをしたところ、被告は、平成七年一月二六日付で、原告の異議申立てのうち、他の権利者に係る換地の定め方についての部分を却下し、その余の部分を棄却する旨の決定(本件決定)をした。原告は、法定の出訴期間内である同年四月二六日、本件決定の取消しを求めて従前の訴えを提起した。

本件換地処分は、本件換地計画を具体化したものであるから、本件換地計画に対する不服の理由は、そのまま本件換地処分に対する不服の理由にもなるのであって、本件換地処分に対する不服は、原告が本件換地処分が行われた旨の通知を受領した平成七年三月五日から三か月以内に提起した従前の訴えにおいて既に表明されていたと解すべきであるから、本件訴えは出訴期間を遵守したものである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  被告の本案前の主張について

1  成立に争いがない甲第一号証の一ないし七、第二号証、第一六号証、原本の存在及び成立に争いがない乙第一号証、成立に争いがない乙第三号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる乙第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件訴えの変更に至る経過について、次の事実が認められる。

(一)  原告は、改良区の組合員で、改良区改良事業森地区内に農地を有し、被告を事業主体とする県営森地区圃場整備事業に参加していた。

(二)  被告は、平成六年一一月四日、縦覧期間を同日から同年一二月二日まで、縦覧場所を中田町役場、迫町役場及び米山町役場として、本件換地計画に関する換地計画書を縦覧に供した。

(三)  原告は、同年一二月一六日、被告に対し、本件換地計画に対する異議申立てをしたところ、被告は、平成七年一月二六日付けで、原告の異議申立てのうち、他の権利者に係る換地の定め方についての部分を却下し、その余の部分を棄却する旨の本件決定をし、そのころ原告に通知した。

(四)  原告は、同年四月二六日、本件決定には次のとおりの瑕疵があると主張して、その取消しを求めて従前の訴えを提起した。

(1) 他の権利者に係る換地の定め方について

原告は、他の権利者に係る換地の定め方については、原告の場合と比較して優遇されている事例として例示したにもかかわらず、被告は、原告がこれれについて別個独立の異議申立てをしたと誤解し、森地区内における換地計画が公正妥当に行われたかどうかについて原告と他の権利者の換地の定め方を対比、吟味することをせず、この点についての判断を遺脱した。

(2) その余の部分について

本件決定において、被告は、従前の土地を四つの等位に、換地を五つの等位にそれぞれ区分し、原告の従前の土地の等位は一等位が約二パーセント、二等位が約七七パーセント、三等位が約二一パーセントの割合とし、換地においては従前の土地の面積で最大の割合を占めていた二等位をもって定めたことをもって、原告の従前地と換地とが照応していることの最も大きな根拠とする。しかし、右判断には次のとおりの誤りがある。

ア 被告は、従前の土地の等位を定めるに当たり、原告の所有でない三等位の土地五筆を含めてこれを確定したもので、本件決定は、前提事実に誤りがある。

イ 本件決定では、従前の土地及び換地の、それぞれの区分における各等位が、それぞれ全体の何パーセントを占めるかが明らかでなく、各土地の等位に対するあてはめ方の合理性についても何ら説明がない。本件換地計画においては、同じ二等位の土地でも大きく異なるものがあって多くの者が苦情を出したので、被告がその調整を行った経緯があるが、原告の土地については具体的な吟味、調整はされず、話し合いの機会も与えられなかった。そのため原告は、再調査の上、公正妥当な換地計画書に改定するように求めて異議申立てを行ったにも関わらず、本件決定はこれに正面から応答していない。

(五)  従前の訴えの提起以前、既に、被告は、原告に対し、同年二月一日付書面をもって、本件換地計画に基づき本件換地処分をしたことを通知し、原告は提訴前の同年三月五日に右通知を受領していた(この事実は原告も自認するところである。)。

(六)  被告は、同年七月一〇日の本件口頭弁論期日において陳述した答弁書において、既に本件換地処分がされており、従前の訴えについては訴えの利益が失われていることを理由として、訴えの却下を求めた。

(七)  原告は、平成八年三月一一日の本件第七回口頭弁論期日において、同年一月二二日付準備書面により従前の訴えを本件換地処分取消しの訴えに交換的に変更した。

2  訴えの交換的変更において、変更後の新請求は新たな訴えの提起にほかならないから、変更後の新請求について法律上の出訴期間の制限が遵守されたか否かを判断するに当たっては、原則として新請求の提起時である訴えの変更の時を基準として決しなければならない。ただし、変更前後の両請求の間に、訴訟物の同一性がある場合か、又は変更後の新請求に係る訴えが当初の訴えの時に提起されたものと同視できるような密接な関連があると解すべき特段の事情がある場合には、訴えの変更が新請求に係る訴えの出訴期間経過後にされたときであっても、例外的に出訴期間の遵守に欠けるところがないものと解される。しかしながら、このような例外が認められるためには、変更前の訴えが、少なくともその提起時点においては適法なものであったことを要し、変更前の訴えがその提起の当初から不適法なものである場合は、このような訴えは却下を免れないものであって、これについて出訴期間遵守の効力が生じる余地はないから、右の例外には当たらないものと解するのが相当である。なぜなら、このような場合にまで、出訴期間の遵守に欠けるところがないと解するのであれば、段階的な手続における行政処分の相手方は、その行政処分が既に行われているか否かに意を用いることなく、とりあえずこれに先行する何がしかの手続を争う訴えを提起しておきさえすれば、それがたとえ違法な訴えであっても、後日訴えの変更の方法により当該行政処分の取消しをいつまでも求めることができることとなりかねず、極論すれば、第一審で当初の訴えが長期間の審理の末不適法として却下された場合でさえ、控訴して訴えを変更して改めて当該行政処分の効力を争うことすら可能となりかねないが、このような結果は、わざわざ処分を知った日を起算日として出訴期間を制限し、しかもこれを不変期間として行政処分の法的安定を早期に図ろうとした行政事件訴訟法一四条の趣旨に反するものといわざるを得ないからである。

これを、本件について見るに、本件換地処分の取消しの訴えは、行政事件訴訟法上の処分の取消しの訴えであるから、同法一四条一項の出訴期間の制限があり、原告は、本件換地処分の通知を受けて同処分があったことを知った平成七年三月五日から三か月以内に取消しの訴えを提起しなければならない。しかるに、前記1のとおり、本件変更後の訴えは、右通知の到達から一〇か月以上経過した平成八年一月二二日に申し立てられたのであるから、右申立ての時点で既に前記出訴期間が経過していたことは明らかである。なお、変更前の請求が換地計画の違法を争い、本件決定の取消しを求めるものであるのに対し、変更後の請求は、換地処分を違法としてその取消しを求めるものであるから、両請求は訴訟物を異にすることも明らかである。

しかして、原告が変更前の従前の訴えを提起した平成七年四月二六日の時点では、既に換地計画に基づいて本件換地処分が行われていた以上、換地計画に対する異議申立てについてされた本件決定を争う従前の訴えは、その提起時点において、既に訴えの利益を欠く不適法なものであり、これについて出訴期間遵守の効力が生じる余地はなかったといわざるを得ないから、変更前後の両請求間に、先に述べたような密接な関係が認められるか否かを問うまでもなく、本件について前記特段の事情を認める余地はないというべきである(前記特段の事情が認められた従前の裁判例のうち、段階的に行政処分がされる手続における後の処分の取消しの訴えの出訴期間が問題となったものは、いずれも当初の訴えの提起後に行われた行政処分によって当初の訴えが後発的に不適法となって訴えの変更を余儀なくされた場合に関するものであるのに対し、本件では、既に従前の訴えの提起時点で換地処分が行われ、かつ原告が右換地処分をした旨の通知を受領して同処分の存在を知っていて、客観的にも主観的にも同時点で換地処分の取消しを請求することが可能であったのであるから、事案を異にする。)。

これを実質的に見ても、原告が不適法な従前の訴えを提起したことにやむを得ない事情があったと認めるに足りる証拠はないし、訴え変更に至る経緯についても、被告が答弁書において本件換地処分済みを理由に従前の訴えの却下を求めてから、六か月以上経過してようやくその申立てをしているところ、この間に速やかに訴えを変更することの妨げとなるような事情は本件証拠から窺うことができないのであって、このような場合にまで出訴期間の遵守についての前記の例外を認めるのは相当でないというべきである。

してみれば、本件換地処分取消しの訴えは、出訴期間を経過した後に申し立てられた不適法なものといわざるを得ず、右訴えに先立って換地計画に対する異議申立てについてされた決定の取消しを求める訴えがその出訴期間内に提起されており、本件訴えがこれを交換的に変更したものであることをもって、出訴期間の遵守に欠けるところがないと認めることはできない。

二  結論

以上の次第であるから、本件訴えは、出訴期間経過後に提起された不適法なものであるので、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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